ミュージック・シティー ナッシュビル
日本では「ミュージック・シティー」として知られるナッシュビル、ブルーグラス・ミュージシャンであるわたしは1971年以来、何度来たことか…。この30年ほどは、ほとんど毎年ここを訪れている。でもこの街、なかなかどーして、音楽以外にも意外と面白い顔を持っている。

アメリカ南部への入り口であり、ジョージ・ブッシュよりも得票数の多かった『不都合な真実』のアル・ゴア元副大統領の地元であるナッシュビル。米国ニッサン本社も2006年7月にこの街にやってきた。ナッシュビルのメトロ・エリアの人口は約150万人で、現在も膨張をつづけている。
日本からひとっ飛び、アメリカ東南部へのゲートウェイ、ミシガン州 デトロイトからテネシー州 ナッシュビルまでは約500マイル、空路1時間半ほど。わたしはいつもこの間、窓側の座席からずっと地上を眺めつづけている。ミシガンからオハイオ州までの前半はただ平野がつづくのだが、ミシシッピ川の支流である大河、蛇行するオハイオ河が見えてくる。つくづく、緑一杯の広々とした土地、耕しさえすれば食べるには困らない、アメリカの底力を見る思いで、豊かな国だと感心する。オハイオ河の南側、ケンタッキー州に入ると丘が連なりはじめる。
もう何十年間も車で走りつづけたケンタッキー、州の愛称は優良な牧草地から名付けられた「ブルーグラス・ステイト」、わたしの専門とする音楽、ブルーグラスの故郷でもある。もちろん、あのフライドチキンの故郷でもあり、また一般の方には「ケンタッキー・ダービー」として知られるように、競走馬の産地として有名かもしれない。そういえば、ここで育ったあの名馬サンデー・サイレンスを育てたアーサー・ハンコックはブルーグラス・ファンで、サンデー・サイレンスをテーマにしたCDも発表していた。
そんな走り慣れたところも、空の上から眺めるとぜんぜん違って見えるものだ。地図とハイウェイを思い描いて空から辿ってみる…、そうこうしている内に飛行機はナッシュビルに着陸する。
ナッシュビル空港
ほかの空港と違うところといえば、空港内に2ヶ所、マイクが立っていること。そう、到着した人たちを音楽で迎えるためバゲージ・クレイムのところと、出発する人を送るためセキュリティー・チェックの横でときおりライブをしてくれるのだ。ときどき、いい若手ミュージシャンを見ることができるけれど、たいがいはスターを夢見てナッシュビルに集まってくる多くのミュージシャンのアルバイトだ。
この街のいろいろな顔を知るには、やはり車が不可欠だ。大都会や整備された観光地じゃないこんなところにこそ、その場でしか味わえない、さまざまな美味しさが隠れているのだから…。わたしのお勧めをクリアするにはレンタカーが必需品だ。お決まりのツアーもいいけど、せっかくのアメリカ、自由になって学生気分やセールスマン気分を味わうのもいいし、南部紳士を気取ってみるのもいい。
ホテル
そうだ、せっかく車があるのだから、ホテルもユニークなのがいい。
セールスマンや若いミュージシャンなら安モテルがお似合いだ。ナッシュビル中心街からI-65を少し北へ行ったトリニティー・レーンのジャンクション界隈には、あちこちのモーテルからその日の最安値レートが電光掲示板に高々と掲げられている。中には30ドルを切る所もある。小坂一也じゃないが、「うらぶれた気分で、ハートブレイク・ホテル」もおつなものだ。ただし、設備や雰囲気に値段相当の覚悟は必要だ。しがないミュージシャンには、これでも上等、寝るだけなんだから…!?
一方、南部紳士でいくなら、ダウンタウンのど真ん中、テネシー州唯一のトリプルAの五つ星、「ザ・ハーミテージ・ホテル」は250ドルから1650ドルまで、各種お部屋が揃っております。また、「ウィンダム・ユニオン・ステーション」は文字通り、ナッシュビルのユニオン駅に1900年に開業した由緒あるホテル。アリソン・クラウスのバンド名にあやかって一度は泊まってみたいが、200ドルはブルーグラス・ミュージシャンには不似合いだ。「オープリランド・ホテル」という怪物のようなアミューズメント・ホテルもある。
家庭的な雰囲気が味わいたければ、ベッド&ブレックファーストもお勧めだ。きっと、世話好きのおばさんがいて、サザン・ホスピタリティーを満喫することができるだろう。
ちなみに、フツーの旅行者なら、名の知られた2スター程度のモーテル・チェーンで60ドル台、3スターなら100ドル前後といったところ。わたしなら、せっかくのナッシュビル、フィドル(バイオリンの俗称)も弾くこともあって、ミュージック・バレイ・ドライブの「フィドラーズ・イン」を選ぶかな…。
さてと、ナッシュビルにお家も確保したことだし、この街の探訪に出かけるとしよう。
ブロードウェイの夜
日本からデトロイト経由でナッシュビルに着くと、だいたい夕方、レンタカーとホテルで夜となる。したがって第1日目は、手軽なところでナイトライフを楽しむことになる。
地理も不安な初日、まずはダウンタウンへ行くのが得策だろう。ナッシュビルのメインストリート、ブロードウェイはカンバーランド川に沿った1stからライマン公会堂のある5thまでの間、そりゃもう、あなたもカウボーイ気分。ここは、いわゆる、観光地なのだ(ただしアメリカ南部白人向け)。
あちこちのクラブからガンガンと音楽が鳴り響いている。酒場の前で馬をつなぎ、勢いよくスウィングドアを開けるつもり…、ほとんどどこも、チャージなし、フラット覗きに入って、バンドや雰囲気が気に入ればビールでも注文して聴いていればいい。有名なのは、かつてグランド・オール・オープリー会場だったライマンの楽屋と面していたという伝説の「トゥツィーズ」や「ロバーツ」、共に午前11時から深夜2時ころまで、目一杯のホンキートンク気分が楽しめる。玉石混交のアメリカン・ミュージック・ショウケースだ。

▲トゥツィーズの店内
ただ、この、いわゆる観光地にも、ときどき、ミュージシャンたちを唸らせる音楽をやっているところもある。たとえば、上記「トゥツィーズ」の真向かいに、ブロードウェイの南側にある「ウルフィーズ・デン」(Wolfy’s Den)、美味しいバーガーと、フィドル・ジャズ&スウィングをノー・カバーチャージでバディー・スパイカーと友人たちが極上のミュージシャンズ・ミュージックを毎晩聴かせてくれた、こんなハプニングにも運がよければ出会えるのがミュージック・シティーの本骨頂だ。観光地のど真ん中にあるオアシスのような、つまり、ちょっと意識を持った(かな…?)お店として、とりあえず、わたしは必ず覗いてみることにしている。今現在は何をやっているのか、よく知らないけれど…。
この東西に走るブロードウェイから直角に伸びる一番通りから五番通りの北側、特に二番通り沿いは深夜まで、にぎやかな通りで、名物ではカントリーダンスの超有名な「ワイルドホース・サルーン」があったり、日本でもおなじみの「ハードロック・カフェ」から日本食の「一番」、「オールド・スパゲティ・ファクトリ」から全国チェーンの「フーターズ」まで、気楽に立ち寄れるところが一杯、みやげ物屋さんも深夜まで開いている。
この夜、ナッシュビルの無料タウン誌、『Nashville Scene』を手に入れておくのも、お忘れなく。音楽、芸術、映画、スポーツ、レストラン、なんでも最新の話題がキャッチできる。気の利かないホテルには置いてなくて、ダウンタウンのナイトスポットでは結構手に入れやすい。
日本から直行、第一夜は意外と目が冴えているもので、ダウンタウンで遊びつかれたあと、お腹がすいたらお勧めは「ハーミテージ・カフェ」(Hermitage Cafe)。一番通りを南へ、ハーミテージ通りに入ったすぐ(71 Hermitage Ave, Nashville, TN)のところだ。ロードムービーで見るような、まさに50年代のアメリカ、しかも、観光用ではなく、そのまんま、そこにある24時間レストラン&コーヒーショップ。昔のおねーちゃんがそのまま働き、メニューもそのまま、決して美味しくはないのもそのままだけど、ほんもののアメリカン・レストランを体験できるところだ。
ここは、かつてライマン公会堂にグランド・オール・オープリーがあったとき、そこの出演を終えたミュージシャンたちが腹ごしらえに立ち寄ったり、ツアーに出向く前の集合場所だったという伝説の店だと、ミュージシャンから教えてもらった。しかし、もちろん、昔も今も、人が観光目的で立ち寄るところでは決してない、ホンモノの場所なんだ。
チャーリー永谷氏と行くカントリーミュージックツアー in U.S.A 2022年

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ナッシュビルの観光スポット
ブロードウェイ Broadway

ブロードウェイは気軽に音楽を楽しめる通りです。
⇒ ブロードウェイ の詳細
ライマン公会堂 Ryman Auditorium

⇒ ライマン公会堂 の詳細
カントリー・ミュージック殿堂博物館

街で一番の観光スポットともいわれるカントリーミュージックの博物館です。
⇒ カントリー・ミュージック殿堂博物館 の詳細
グランド・オール・オープリー The Grand Ole Opry

番組の公開ライブは、1974年にライマン公会堂からミュージックバレーに移りました。
⇒ グランド・オール・オープリー の詳細
ミュージック・バレー Music Valley

⇒ ミュージック・バレー の詳細
ナッシュビルの観光スポット一覧
ナッシュビル 観光ポイント マップ
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