The Broad ザ・ブロード

15年12月18日
Link-USA

ザ・ブロード コンテンポラリー・アートの粋を集めて


The Broad ザ・ブロード

写真 文:桑田英彦


ロサンゼルス・ダウンタウンに最新の美術館がオープン!


ザ・ブロードは、慈善家(実業家)のエリ&エディス・ブロード夫妻がロサンゼルス・ダウンタウンに総工費1億4000万ドルを投じて設立したモダンなミュージアムだ。グランド・オープンは2015年9月20日、入場無料で一般公開中だ。現在はザ・ブロードに収蔵されている約2,000点の作品の中から、ブロード・コレクションを包括的かつ年代順に鑑賞できるように、約60人のアーティストによる250点の作品が展示されている。周辺にはMOCA(ロサンゼルス現代美術館)、ディズニー・コンサート・ホール、ミュージック・センターなどが隣接し、このエリアは新たなダウンタウンのランドマークとなるだろう。


エリ&エディス・ブロード夫妻エリ・ブロードは1933年にニューヨークのブロンクスで生まれた。6歳の時デトロイトに引っ越し、1954年にミシガン州立大学を卒業している。20歳11か月の時に公認会計士の資格を取得し、これは当時としては全米最年少記録である。1957年に住宅建設会社を創業し、この業種としては初となるニューヨーク証券取引所への上場を果たしている。1970年代には保険業界に進出し、1999年に所有していた保険会社を業界最大手のAIGに売却して財を成した。
 その後、妻エディス(エリが21歳の時に結婚)とともにブロード財団を設立すると、全米の大学に1,000億円を超える莫大な寄付を行う。すでに世界有数の美術品コレクターとして知られていた夫妻は、毎年多数の美術作品を購入し、世界中の美術館や大学へ作品を寄贈している。ザ・ブロードはこのような夫妻の慈善家としての活動の集大成でもあるのだ。

アンディ・ウォーホール

ザ・ブロードは最上階の3階がメイン・ギャラリーになっており、約3,250㎡の展示スペースには柱が1本もない。まずは1950年代後半から1990年代のポップアートを代表するジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホール、ロイ・リキテンスタインなどの作品が出迎えてくれる。


ロイ・リキテンスタイン

続いて進むと、ウォーホールとの共同作業でも知られるジャン=ミシェル・バスキアはじめ、シンディー・シャーマン、ジェフ・クーンズたちの素晴らしいコレクションに目を奪われる。ニューヨークのソーホーやイースト・ビレッジで生まれた斬新な切り口の作品群は現在でも十分に新鮮だ。


The Broad ザ・ブロード

 次に”チャレンジング・ヒストリー”というカテゴリーで展示されているキャンディ・ノーランド、カラ・ウォーカー、デヴィッド・ヴォイナロヴィッチなどのメッセージ性の強烈な作品が並ぶ。ブロード夫妻はこういった社会的、政治的なテーマを内在する作品を継続的に収集しており、ザ・ブロードにおいてもこういった作品群がミュージアムとしての個性にエッジを効かせている。メイン・ギャラリーには米国におけるポップアートが、時代の流れとともに、次第に先鋭化してくプロセスが立体的に展示されている。アートというフィルターを通して、政治、経済、思想などが歴史に沿って具現化されているのだ。


村上隆

 1階のギャラリーは2000年以降、現在までに制作された作品で構成されている。何と言っても見ものは草間彌生の巨大な作品「Infinity Mirrored room-The Souls of Millions of Light Years Away」という長いタイトルの2013年の作品だ。木、金属、ガラス、鏡、アクリルなどの素材に加えて、LEDライティング・システムを大胆に用いたこの作品との出会いは、鑑賞ではなくまさに”体験”である。同じく日本人アーティストの村上隆の「DOB in the Strange Forrest」も注目の展示で、彼の他の展示作品も訴求力に溢れている。


The Broad ザ・ブロード

The Broad ザ・ブロード こういった素晴らしいブロード・コレクションに加えて、もう一つの重要なアート作品がある。それはこの斬新なフォルムを誇るザ・ブロードのアーキテクチュアそのものである。設計のコンセプトは「ヴェール&ヴォルト (Veil &
Vault)」だ。ヴェールとは建物を包む外装を指し、ヴォルトとはコレクションの保管庫を意味する。
 女性が被るヴェールをイメージした、多孔状の蜂の巣のような外部構造により、太陽光はフィルターと通したような柔らかい自然光となって館内に流れ込む。館内随所で視界に入るVault=保管庫は、アート作品に対して”展示と保管”という、2つの鍵となるミュージアムの役割を私たちにアピールする。保管庫をくり抜くようなスタイルで設置されているらせん階段では、設置された小さな窓から保管されている膨大なコレクションを見ることができる。ロサンゼルスが誇るコンテンポラリー・アートの分野で、ザ・ブロードは新たな牽引力を発揮することになるだろう。

取材協力:ロサンゼルス観光局・ロサンゼルス国際空港


著者紹介


桑田英彦 Hidehiko Kuwata


音楽雑誌の編集者を経て渡米。1980 年代をアメリカで過ごす。帰国後は雑誌、機内誌や会員誌などの海外取材を中心にライター・カメラマンとして活動。世界30カ国を旅して、観光地だけでなく、ライフスタイル、グルメなどを取材。またアメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリア、ハンガリー、ウクライナなど、海外のワイナリーを数多く取材。著書は『ワインで旅する カリフォルニア』『英国ロックを歩く』(スペースシャワーネットワーク)、『ミシシッピ・ブルース・トレイル』(スペースシャワーネットワーク)、『ハワイアン・ミュージックの歩き方』(ダイヤモンド社)、『アメリカン・ミュージック・トレイル』(シンコーミュージック)等。


L.A. Fashion & Art 2015
 ・アボット・キニー・ブルバード 2015  ・The Broad ザ・ブロード