ドキュメンタリー映画 Take Me To The River

この映画はメンフィスで産まれ育まれたブルースやソウルといった音楽を、レジェンドリーなベテラン・ミュージシャンと若い世代のミュージシャンがセッションを通じて継承していく様子を映像にまとめたものです。映画には全部で9つのセッションが収録されています。実際に行われたセッションの数はもう少し多く、映像的にまとめにくかったセッションは映画には収録されていませんが、オリジナル・サウンドトラックCDには12曲が収録されています。セッションの多くはメンフィスのロイヤル スタジオで行われており、ローレンス“ブー”ミッチェル氏が音楽プロデューサーとして製作に関わっています。
セッションの若手ミュージシャンにはラッパーもいて、レジェンド・ミュージシャンとはスタイルが異なるのですが、お互いに認め合ってリスペクトしながらセッションがまとまっていく様子は鳥肌物です。スタンダードな音楽を若いミュージシャンに伝統的に継承するのではなく、その精神とかサウンドに魂を込める方法などを伝授していくシーンが心を打ちます。セッションで予想を超えるサウンドが産まれた瞬間に“ブー”ミッチェル氏やスタッフがミキシング・ボードの前で弾けるシーンも印象的です。
この映画は監督のマーティン ショア(Martin Shore)の発案で2011年から制作が開始し、2014年に公開されたのですが、セッションに登場したヒューバート サムリンが2011年12月、スキップ ピッツが2012年5月、ボビー“ブルー”ブランドが2013年6月に亡くなってしまいました。その後、日本で公開される前、オーティス クレイが2016年1月に亡くなっています。この映画では実に貴重なシーンを見ることができるのです。
⇒ 約束の地、メンフィス ~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~ 公式ホームページ
梅田からナンバまで 2017
この『Take Me To The River』のセッションを見て思い出した事がありました。
2017年に、70年代初期におこった関西ブルース・ムーブメントの重鎮の一人である有山じゅんじさんの代表曲である「梅田からナンバまで」を若手ミュージシャンと共にリ・レコーディングしました。ベテラン・ミュージシャンは有山じゅんじさんとサウンド・プロデューサー&ベーシストとしてNANIWA EXPRESS の清水興さんが参加し、それ以外は若手と中堅のミュージシャンでレコーディングしたのです。この「梅田からナンバまで 2017」は大阪の御堂筋が80周年を迎えるという事で、非公式ながら応援ソングとして大阪観光局などでも流れていました。
『Take Me To The River』はメンフィスで「梅田からナンバまで 2017」は大阪とロケーションは違いますが、制作意図が似ているのと、ベテランと若手の交流と言うスタイルが同じでした。実は10年ほど前の御堂筋70周年の時にも「梅田からナンバまで」を若手ミュージシャンでリメイクしようという話が上がっていたので「梅田からナンバまで 2017」のコンセプトは『Take Me To The River』を真似た訳ではないし、影響を受けたのではありません。
梅田からナンバまで 2017 のレコーディング シーン
この「梅田からナンバまで 2017」は、僕の友人が経営するレコーディング・スタジオで行われたのもあって、僕はその場に立ち会うことが出来ました。「梅田からナンバまで 2017」のPVはありますが、『Take Me To The River』のようなメイキングシーンは無いので、その時の様子をここに記載しておきたいと思います。
レコーディングは2回に分けて行われました。1回目にベーシックトラックを録音して、2回目にボーカル録りです。この「梅田からナンバまで」という曲は比較的コンパクトにまとまった曲なので、ベーシックトラックのレコーディングは順調に進み、予定よりも早くにベーシックトラックのレコーディングが終わろうとしていた時に有山さんが「曲の後にセカンドラインを入れよ」と言い出しました。サウンド・プロデューサーの清水興さんをはじめ、みんなが「?」を思い浮かべていましたが、清水興さんが「別トラックでレコーディングして繋いでみましょう」とテンポを決める作業に入りました。「梅田からナンバまで 2017」は原曲に無いバイオリン・ソロやサックス・ソロを入れたので、若手ギタリストたちをフューチャーできなかったので、セカンドラインを後ろに付けてそこでギターソロを入れたら良いのではというアイデアを有山さんは思いついたのです。清水興さんがベースを弾きながら、ドラムのツルタハヤトやピアノのサエツにセカンドラインの独特のグルーブを染み込ませていきました。最初は硬かったリズムにうねりが出てきて、それを聞いていた有山さんがご機嫌になってきました。清水興さんが「こんな感じでどうでしょう」と言うと、有山さんは「ええ感じや!コーラスも入れよ」とまたまた新しいアイデアを思いついたようです。
コーラスも入れてセカンドラインの録音が終わり、曲に繋ぐタイミングを決めてベーシックトラックが完成しました。このベーシックトラックを通してプレイバックして確認した有山さんは「次回はボーカルと、セカンドラインにギターソロ入れて」という言葉に続けて「セカンドラインの所でイトキン(ET-KING)のラップを入れよ」と言い出しました。イトキンはボーカルで参加予定でしたがボーカルのパートを数人で分けるので、ラップでフューチャーする事を思いついたのでしょう。偶然にも『Take Me To The River』のようにラップ・セッションが加わったのです。

PVのスタジオのシーンではイトキンを見ることができます。良ければご覧ください。
(レコーディングに参加したミュージシャンのクレジットも掲載しております)
⇒ 梅田からナンバまで2017
次回 ⇒ 52. ロイヤルスタジオ <番外編> に続く
ロイヤル スタジオの場所と行き方
Royal Studios 1320 Willie Mitchell Blvd, Memphis, TN
メンフィス国際空港からロイヤル スタジオへ、車(レンタカー)で行く場合の一例。
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